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アイタタタタタタ!な感じです。
通常テキストにするにはあまりにアレなので、短くまとめてみました。
ご覧になる場合は覚悟を決めてからお願いします。
それにしても薄っぺらすぎて軽く死にたい感じです。もっと重厚に書きたかった。
たぶん一番可哀相なのは貴鬼だなこの話・・・。
背を冷たいものが走る。ほとんど無邪気とさえいえる柔らかな笑顔を前にして、紫龍は自分が手のひらに汗をかいていることに気づいた。
今聖域で密やかに、しかし確実に広がりつつある噂は本当だったのだ。黄金聖闘士の殆どがそれについて口を閉ざし、自分もまた半信半疑のまま此処に来たその噂。
牡羊座のムウは、狂っている。
NO TITLE
「どうぞ、お茶が入りましたよ」
言葉と共に差し出された飲みものからは、温かい湯気とほんのりとした油の甘い香りを感じる。クリーム色に光って見えるそれは、ムウの故郷では一般的なものらしい。
「貴方はすこし甘い方がお好きでしょう?私が塩を入れるといつも不機嫌な顔をなさって」
貴方の飲み方の方がおかしいと、いつも申し上げてるのに全然聞いて下さらないし。
くすくすと笑うムウの手には、砂糖菓子を載せた小さな皿がある。隣に座るアイオロスは、以前にも同じものを振舞われれたことがあると言っていた。
そのアイオロスは、何かに耐えるかのような苦い表情をしている。組んだ両手に額をあてて、寄せた眉根の下からムウの様子を見る彼の顔つきは、この時間が苦痛以外の何者でもないと雄弁に語っていた。或いはもしかしたら、勇者たるサジタリアスですらこの有様をひとりで見る勇気が持てなかったのが、今此処に紫龍が同席している理由なのかも知れなかった。
そんな二人の様子に気づく風もなく、ムウは透き通るような顔で笑っている。幸せで仕方がないとでも、言うかのように。
最初に異変を知ったのは、任務で傷ついた聖衣の修復を頼みに来たカミュだった。白羊宮に滞在する間まとわり続けた視線は、何か物言いたげな貴鬼のもので。ムウが聖衣を点検している間、さり気なく連れ出した屋外で問いかけたカミュは、言葉を失う。
『貴鬼、少し休憩しましょうか。シオンもそろそろ待ちくたびれている頃でしょうし』
『いつまで寝ているんです。起きなさい、貴鬼。シオンはもう教皇の間に行きましたよ』
『シオンは今日も遅くなるそうですから、いつも通り夕食は先に食べてしまいましょうね』
繰り返される辻褄の合わない言動。いない人がまるで本当にすぐ近くで生きているかのように、ごく普通の会話として。あるいは、一人分多い食器として。
聞く度に、目にする度に泣きそうになりながら話を合わせていたという貴鬼を、カミュはその時思わず抱きしめた。
帰ってこなかった唯一人を呼ぶそのあまりにも穏やかな声を、出来るならもう聞かせたくなかった。
女神の祈りがこの世に黄金聖闘士たちを呼び戻したその朝、ムウは静かに何度もその名前を呼んでいた。
シオン。シオン、シオン、シオン、シオン、シオン。シオンは、何処に。
それに応える深く温かな声はなく、代わりに泣き伏せる女神と目を伏せて首を振る天秤座の姿だけがムウの目に映った。おそらくもうその時に、亀裂は生まれていたのだろう。
自分の聖衣を弟に譲り新たに教皇の法衣をまとったサガの顔を、心底不思議そうに見つめながらムウはまたその名前を呼んだ。シオン。
そこからはもう、どうにもならなかった。
坂を転げ落ちるかのような速度でムウの言動は異常さを増していき、ついには彼の元に貴鬼を置いておくべきではないとサガが判断するほどになるのに然程長い時間はいらなかった。
連れに来たカノンの手を引き離そうともがく貴鬼にムウは、ちゃんとシオンに鍛えてもらうんですよ、と声を掛けたという。泣きじゃくる貴鬼を捕まえて連れて行くことを考えていなければ、殴っていたかも知れないとカノンは言っていた。
「もう、やめろ」
アイオロスの低い声が耳に届いていないはずはないのに、ムウは楽しそうに茶器を調える手を止めない。
今度は紅茶にしましょうか、でも貴方ときたらストロングのアッサムにミルクも入れないんだから、いつ胃に穴が開くか私としては心配なんですよ。そのくせ砂糖は三杯も入れて。
「ムウ。やめるんだ」
朝はともかく、今はやめておいて下さいね。ああ、ラプサン・スーチョンがあったんでした。まだ開けてないんです、貴方このところお忙しかったから。
「本当は、狂ってなんかいないんだろう」
ぴたり、と独り言のように続いていたムウの言葉が止まった。
顔を上げる動作につれて、首がゆるりと伸ばされる。その首筋のすっきりとした様が目を奪った。幾分傾けた顔は、光のもとで空恐ろしいほどに幸福を湛えていた。こんなに美しい無表情を見たのは、紫龍には初めてだった。
そしてその白い顔の向こうに横たわる、大きく口を開いた裂け目を、絶望と呼ぶ。ムウ以外の全ての人間が。
END
ずっとご挨拶にうかがいたくってたまらなかったのですが、当時まだ監禁中でいらしたので、今メールしたらきっとご迷惑に違いない!とか思ってるうちに遅くなってしまい…す、すみませ…。
掌編拝見しました。シオンムウと秘密の小部屋ももちろんとっくに拝見しました。
ヤモリ(A)さんの、感覚の鋭さと視線の保ち方のニュートラルさ、もちろん文章力も、センスに溢れていてたまりませんっ。
今回の掌編とかは、簡単に「いい話ですね」なんて片付けられないものなのですが、こんな風景を切り取る角度に、まず驚かされました。
これからも頑張ってください!乱筆失礼しました。さな